『VIVANT』の続編(第2シリーズ)が放送され、再び大きな注目を集めています。2023年に放送された第1シリーズでは、壮大なスケールの物語や予想外の展開が注目されました。しかし、多くの人が心を動かされた理由は、それだけではないように思います。
私はこのドラマの人気を見て、少し不思議に感じました。というのも、『VIVANT』はスパイドラマでありながら、英国や米国の代表的なスパイ作品とは少し違う特徴を持っているからです。英国のスパイ作品では、冷静で知的なプロフェッショナルが描かれることがよくあります。国家の利益を守るために感情を抑え、任務を遂行する姿に価値が置かれます。一方、米国のスパイ作品では、個人の信念や決断が物語の中心になることが少なくありません。主人公は組織と対立してでも、自分が正しいと信じる道を選びます。
『VIVANT』は、一見そのようなスパイドラマのようでありながら、実際には、父と子の絆、仲間との信頼、与えられた使命への忠誠が物語の中心にあります。つまり、人間関係に注目させられるドラマなのです。
『VIVANT』は現代版忠臣蔵なのか
そして思い当たるのは、それが江戸時代の『忠臣蔵』を連想させる日本的な特徴であることです。
忠臣蔵は、江戸時代の赤穂浪士が主君のために討ち入りを行った物語です。その物語の中心にあるのは、「何が正しいのか」という問題ではありません。むしろ、「誰に忠実であるのか」という問題です。赤穂浪士たちは、自分の利益や将来よりも、主君への忠義を選びました。
『VIVANT』の主人公・乃木も、よく似ています。彼は、自分の成功や幸福のために行動しているわけではありません。父への思い。仲間への信頼。別班としての使命。そうした複数の関係の中で葛藤しながら生きています。このように、「忠誠」や「絆」を中心にした物語は、日本人にとってどこか懐かしいものなのです。
でも、今の若者は忠誠を大切にしているのか
しかし、現代の若者にとって、「忠誠」など、共感できるテーマなのでしょうか。かつては終身雇用が一般的で、一つの会社に長く勤めることが当たり前でした。しかし、現在は違います。転職は珍しいことではなく、副業も広がっています。「会社に人生を捧げる」という考え方に共感する若者は、それほど多くないでしょう。つまり現代社会では、「組織への忠誠」という価値観は弱くなっています。
もしそうなら、『VIVANT』のような作品は若い世代に支持されないはずです。しかし実際には、多くの若者もこのドラマを楽しみました。これはなぜでしょうか。
忠誠心がなくなったのではない
実は、忠誠心そのものが消えたわけではないのでしょう。忠誠を向ける対象が変わったのです。かつては、会社、組織、家が中心でした。しかし現在は、家族、親友、恋人、仲間へと移っています。
若い世代が感動したのは、「国家への忠誠」ではなく、「仲間との信頼」ではないでしょうか。乃木と黒須の関係に心を動かされた人は、多かったはずです。「この人は自分を裏切らない」。そう思える相手がいることに、多くの視聴者が魅力を感じたのです。
現代人が求めているもの
現代社会は便利で自由です。しかし、その一方で、人間関係は昔より流動的になりました。転校や進学によって友人関係は変わり、就職すれば職場も変わります。SNSでつながっていても、本当に信頼できる相手がいるとは限りません。たくさんの人とつながれる時代である一方、深くつながることは難しくなっています。
だからこそ、「どんな時も味方でいてくれる人」への憧れが強くなるのです。『VIVANT』は、そうした願いを物語として描いた作品だと言えるかもしれません。
人気作品は社会の鏡
ドラマや映画は、ただの娯楽ではありません。その時代の人々が何を求め、何に不安を感じているのかを映し出す鏡でもあります。江戸時代の人々は、忠臣蔵に心を動かされました。そして現代人は、『VIVANT』に心を動かされました。時代は違いますが、共通しているものがあります。それは、「信頼できる人との絆」への憧れです。
表面的にはスパイドラマに見える『VIVANT』ですが、その人気の理由を深く考えてみると、現代の若者を含む多くの人々が、「自分を本当に理解し、支えてくれる存在」を求めていることが見えてくるのではないでしょうか。人気作品を分析することは、社会や人間の心を理解する手がかりになるように思われます。
聖書はこのテーマをどのように考えているのか
最後に、私が加えて述べたいことは、聖書もまた「関係」を重視していることです。聖書も、「忠実であろうとする人間の物語」を描いています。しかし、聖書の中心は少し違います。聖書は、「私たちがどれだけ忠実か」ではなく、「神がどれだけ忠実であるか」を語ります。
忠臣蔵の浪士も、乃木も、最後は苦しみます。人間の忠義には限界があります。複数の忠誠の間で引き裂かれるからです。しかし聖書の神は、決して変わらない忠実な方として描かれています。
もし『VIVANT』を忠臣蔵の現代版として読むなら、その人気は、「忠義を失った社会の嘆き」ではなく、「裏切られない関係を求める現代人の渇き」の表れとして理解できるかもしれません。そして、その渇きに対して聖書は、「まず神があなたに真実である」という意外な答えを示しているのです。「わたしは決してあなたを見放さず、あなたを見捨てない。」(ヘブル人への手紙13章5節)『VIVANT』の物語を見て、多くの人が心を動かされた理由を考えるとき、この言葉もまた、一つの興味深い視点を与えてくれるのではないでしょうか。©パスターまこと。


